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神戸地方裁判所 昭和42年(借チ)12号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕二、実体的要件

(1) 本件土地は市電板宿停留所(板宿線終点のほぼ真西に位置し、右市電通り(幅員二五米)に東面した商店街の北寄りに在る。本件土地の北方数十米のところには山陽電鉄板宿駅があり同駅前通り商店街(東西に通ずる)は右市電通り商店街に合しており、右市電通りを山陽電鉄線路の踏切を越えて北上すれば板宿本通り商店街に通ずる。

(2) 申立人が友広正弥と賃貸借契約を締結した昭和二三年六月当時は、友広所有の本件土地を含む平田町三丁目三番地上の前記数棟の建物(電車通りに面しない部分は住宅)およびその南隣の忠見カツエ居住の建物等は戦災をまぬがれ、戦前のままであつたが、前記市電通りを距てた向い側は殆ど焼跡の急造建物であり、平田町三丁目四番地以北は強制疎開跡の空地となつていたところ、そこに屋台店程度の闇市が並び、板宿本通りも戦災焼跡に仮設建物の商店が建ち並んでいた状況で、本件土地附近一帯は木造の住居と小店(電車通りに面した部分)が混在するいわゆる場末の電停終点前であつた。

(3) しかし最近に至り、漸次板宿奥地の妙法寺附近が開発され住宅地となつて入口が急増したため、前記(1)のように地の利を得ている本件土地附近は、人通りも頻繁となり、表通りに面してはモルタル塗りによつて装飾され、あたかも木造建でないような店舗(もつとも外観に反し実は木造二階建程度の建物が多く、相手方所有の店舗のみが木造ながら三階建である。)が建ち並び、アーケードを設け、近代的な商店街となりつつあり、通りに面しない部分には住居建物が密集し、やがては神戸市の副都心となる様相を呈しつつある。しかして、ここ数年のうちに本件土地の西方約五〇米のところには平田文化学院、平田幼稚園の鉄筋コンクリート造三階建の堅固建物二棟が相ついで建築され、また前記電車通りを距てた向い側にも点々と銀行、新聞社、証券会社等の中高層の堅固建物が建築されるようになり、板宿本通り商店街にも二、三の堅固建物が建築されるに至つた。

(4) 本件土地については昭和一〇年一二月一八日乙種防火地区の指定(内務省告示第六二二号)がなされていたところ、建築基準法の施行により昭和二五年一〇月二五日準防火地域の指定がなされたものと看做されることになつた。

(5) 右のように、本件土地附近は商店街として発展の途上にあるところ、申立人は現存する本件店舗41.98平方米(12坪7合)および前記作業場で菓子類の製造販売業を営んでいるが、家族、従業員の住居と食品製造販売を営む場所が同一であることは不衛生であると所轄保健所から度々注意を受けている状況でもあるので、土地の合理的利用をはかり、三階建の堅固建物に改築する予定で本件申立におよんだものである。

三、裁量すべき事情

(1) 借地権の残存期間は約一〇年であるが、契約が更新される可能性は極めて濃厚である。

(2) 本件土地の附近には、現に前記のように鉄筋三階建の建物も建築されており、本件土地が堅固建物建築に適さないような事情は認められない。

(3) 本件借地権の設定にあたつて、権利金、敷金等の授受はなかつた。

四、当裁判所の判断

前示二、(3)(4)認定のとおり本件土地附近は未だ木造建物の方が多いことはいなめないが、本件賃貸借契約当時と異つて建物の密集度は著しく高くなり、その中に点々と堅固な建物も混じるようになつてきているし、近い将来に商店街、繁華街として発展することは十分見込まれる。また本件土地については既に昭和一〇年一二月一八日、市街地建築物法(大正八年四月四日法律第三七号)により乙種防火地区の指定がなされ、それが建築基準法の施行とともに昭和二五年一〇月二五日準防火地域の指定を受けたものと看做されることとなつたものではあるが、市街地建築物法と建築基準法とでは建築物についての法的規制の内容も幾分異るのであるから、本件賃貸借契約締結後に準防火地域の指定があつたものとみて差支えないのみならず、仮にそうでないとしても……申立人は右契約当時乙種防火地区の指定を受けていることを知らなかつたし、また……知らなかつたことにつき過失もなかつたというべく、かような事情にある場合、準防火地域の指定を理由とする事情変更の場合に準じて考えることは許されると解する。

そうすると本件の場合、附近の土地の利用状況の変化、少くとも、その他の事情変更があつた場合に該ることは明らかといわねばならない。……

そこで次に附随裁判について検討することとする。

(1) 存続期間については、申立人が予定している堅固建物の規模、構造、その物理的耐用年数、堅固建物所有を目的とする借地権については、その期間は少くとも三〇年とされていること、その他の事情を考慮して、鑑定委員会の意見にしたがい本裁判確定の日から四〇年間存続するものとする。

(2) 次に賃料と財産上の給付は相関関係があるので、まづ財産上の給付から考えることとする。申立人にとつては、現賃貸借契約の残存期間が約一〇年であるところ、本件土地上の現存建物は、かなり古くなつており、堅固な建物所有目的の借地条件に変更されることにより申立人は、やがて来るべき現存建物朽廃による借地権の消滅を免れ得るのみか、右のように存続期間が約三〇年延長され、本件土地を最高度に利用することができる利益があるのに反し、相手方にとつては、借地権消滅の期待が薄れ、更新の時期が遠ざかり、仮に期間満了の際に賃貸人に正当の事由が認められる事情が生じても、賃借人から買取請求権を行使されることを考慮すれば、事実上更新拒絶権の行使を制限される不利益を受けることになるのである。

かような双方の利害を調整するためには申立人に相当の金員の支払いを命ずるのが相当である。

ところで鑑定委員会の意見(いわゆる折半法による継続賃料の一部前払いを命ずるとの考え方)は、借地条件変更の場合の財産上の給付金の算定基準としては適当でないと思料するので、当裁判所は、鑑定委員会の更地価格(同委員会が更地価格というのは正確には本件土地附近の標準更地価格と解する。)、効用率および借地権割合についての鑑定意見のみを採用し、本件土地附近の標準更地価格を3.3平方米(1坪)当り四〇万円とし、効用率を87.35%として、本件土地の更地価格を三四万九、四〇〇円と評価し、これを基礎として、前記諸事情を斟酌し、申立人の給付すべき金額を本件土地の更地価格の約一割に当る3.3平方米当り三万五、〇〇〇円、本件土地全部につき一一五万円(端数切捨て)とするのを相当と考える。

(3) 次に賃料についても、本件借地条件の変更にともない相当の増額をなすべきものと考えるが、鑑定委員会の賃料について意見は、前記のとおりその財産上の給付金との関連において、これを定めているので、そのまま採用することはできない。そこで当地方における堅固建物所有を目的とする賃貸借の賃料の実質利廻り(年間)は通常底地価格の二%ないし三%に当る実情(当裁判所に顕著な事実)を参酌し、従来の賃料が比較的安く前掲のように数回の増額を経た現在でも3.3平方米当り約八〇円、本件土地全部につき二、六〇〇円であること、前記のように更地価格の約一割に当る財産上の給付を命じたこと、近隣の地代が最高のものでも3.3平方米当り一五〇円(非堅固建物所有目的の借地の場合と推認される。)であること、賃料の保守性等をあわせ考え、本件においては底地価額3.3平方米当り一〇万四、八二〇円(借地権と底地の割合を七対三とみて、前記更地価格3.3平方米当り三四万九、四〇〇円の三〇%)の二%の利廻り(年間)になるように純賃料を定めるのが妥当と考える。そうすると右純賃料は計数上、一カ月につき3.3平方米当り一七四円となるところ、鑑定委員会の意見にしたがつて、公課を一カ月につき3.3平方米当り五〇円、管理費を一カ月につき3.3平方米当り五円(純賃料一七四円の三%)とみて、右純賃料に、これを加算すれば、賃料(適正賃料)一カ月につき3.3平方米当り二二九円が計上されるので、本件土地全部についての賃料は一カ月につき七、五四六円とするのが相当と考える。(小川正澄)

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